4時限目は、肥料の役割や扱われ方について学びました。
5時限目はより掘り下げて、肥料の中身や肥料選びのポイントを見ていきましょう。
少し内容が多くなりますから、たまに植物を見ながら休憩してくださいね!!
1.肥料の中身は?
肥料の中には、植物の生命維持に必要な成分が含まれています。
2時限目「植物の栄養を学ぼう!」で、植物に必要な栄養分について学びました。
肥料にはこの中の多量要素や微量要素が様々な比率で含有されています。
具体的にどんなものがどの程度含まれているのかを知るには、普通肥料の場合「保証票」、特殊肥料の場合「表示事項」が参考になります。
普通肥料の保証票
保証票は、生産業者や輸入業者が取り扱う肥料に対してその品質を示すために添付を義務付けられているものです。
肥料のパッケージに掲載されていますので、その一例を見てみましょう。
保証票の項目のなかに「保証成分量」が記載されています。
肥料の中身を具体的に示しているのがこの「保証成分量」です。
普通肥料で保証できる主要な成分(有効成分)は、
- 窒素
- リン酸
- カリ
- 石灰
- 苦土
- マンガン
- ほう素
- ケイ酸
の8つです。
肥料には種類ごとに「最低保証成分量」が定められており(公定規格)、保証票は、その基準をクリアしていることを保証するとともに、その他どのような主要な成分(有効成分)が含まれているのかを示しています。
有効成分は、その溶解性(溶けやすさ)や状態(土壌にどのような形態で供給されるか)によって以下のように分類されます。
普通肥料の成分をさらに詳しく読み解くために、有効成分に示されている各項目について確認します。
【ク溶性】
水には溶けず、根の先から分泌されるクエン酸などの有機酸(根酸)に溶解する性質です。
ク溶性の成分は、植物がその生長段階に合わせて能動的に吸収することができるため、効果が出るのに時間はかかるものの、雨水や水やりによって肥料が溶け出すこともなく、高い持続性を持ちます。
この性質から、ク溶性成分を主体とする肥料を緩効性肥料といいます。
肥料公定分析法では、2%のクエン酸に溶解するものをク溶性としています。
ちなみに、ク溶性のクは、クエン酸のクです。
【水溶性】
水に溶ける性質です。
水に容易に溶けて可給態(植物にとって吸収可能な状態)となり、速やかに吸収されます。
そのため水溶性の成分を主体とする肥料を速効性肥料といいます。
速効性肥料は、不足した養分を速やかに補う追肥として有効とされています。
ただし、施量過多の場合は栄養分の過剰症状などが発生します。
また、火山灰土壌由来の用土(鹿沼土、赤玉土など)は溶けたリン酸を速やかに吸着してしまい、植物が養分を吸収することができなくなるため注意が必要です。
肥料公定分析法では1:100の水に溶けるものとしています。
【可溶性】
水には溶けず、特定の溶液には溶け出す性質です。
肥料の有効成分として扱われるものには、可溶性リン酸、可溶性苦土、可溶性マンガン、可溶性ケイ酸の4つがあります。
可溶性成分が溶け出す特定の溶液は、下の表のようになります。(一応掲載するものです。)
〈可溶性リン酸〉
リン酸肥料においては、可溶性成分が水溶性成分よりもゆっくりと、なおかつク溶性成分よりは早く溶け出し、肥効が表れます。
〈可溶性苦土・マンガン・ケイ酸〉
苦土肥料・マンガン肥料・ケイ酸質肥料においては、可溶性が水溶性成分よりもゆっくりと、さらにク溶性成分よりもゆっくりと溶け出し、肥効が表れます。
【アンモニア性窒素と硝酸性窒素】
アンモニア性窒素(NH4の形態)と硝酸性窒素(NO3の形態)はともに植物が吸収可能な形態の窒素です。
これらを含む肥料は、どちらも土壌中で水に溶けるので、速やかに可給態となる速効性の肥料といえます。
両者はともに水溶性の可給態窒素ですが、土壌への吸着性が異なっています。
アンモニア性窒素はプラス電荷を帯びるため土壌に吸着されやすく、硝酸性窒素はマイナス電荷を帯びるため土壌に吸着されにくいという性質をもちます。
土壌に吸着されにくい硝酸性窒素は、植物が吸収する前に流亡してしまうことが多いため、肥効が持続しません。
土壌に吸着されない窒素分の流出は環境汚染にもつながります。
しかし、植物の中には硝酸性窒素を好んで吸収する種類も多く、こうした観点から硝酸態窒素施用の必要が生じる場合もあります。
特殊肥料の表示事項
特殊肥料にも、普通肥料と同様に品質に関して表示すべき事項(表示事項)が定められています。
まずはその「表示事項」の例を見てみましょう。
この表示事項の中に表記されている、特殊肥料の中身を表す部分が、「主要な成分の含有量等」です。
これは、さらに詳しく言うと「主要な成分の含有量」「炭素窒素比」「水分含有量」のことです。
特殊肥料の場合、
- 窒素全量(%)
- りん酸全量(%)
- 加里全量(%)
- 銅全量(1キログラム当たりミリグラム(mg/kg)
- 亜鉛全量(1キログラム当たりミリグラム(mg/kg)
- 石灰全量(%)
- 炭素窒素比
- 水分含有量(%)
について、既定の測定方法に基づいて測定した結果を表示されます。
(銅全量・亜鉛全量・石灰全量・水分含有量については一定の条件に当てはまる場合に限り表示が義務付けられます。)
この部分を見ることで、特殊肥料の中にどんな成分がどの程度入っているのかを見ることができます。
ここで、「炭素窒素比」という用語について説明したいと思います。
【炭素窒素比】
有機質資材に含まれる炭素と窒素の比(質量比)のことです。「炭素率」「C/N比」と言われます。
ある有機質資材に炭素が1000mg、窒素が25mg含まれるとすると、炭素窒素比は40ということになります。
土壌微生物は、有機物を分解して植物が吸収できる無機態の窒素(アンモニア態や硝酸態の窒素)を作り出します。
この分解過程で、微生物自身も窒素を利用しています。
園芸などでいう炭素窒素比は簡単に言うと、分解する対象(炭素)と、必要な材料(窒素)の比ということになるのではないでしょうか。
土壌微生物は、有機物を分解して植物が吸収できる無機態の窒素(アンモニア態や硝酸態の窒素)を作り出します。
この分解過程で、微生物自身も窒素を利用しています。
炭素窒素比は、資材によって大きく異なり、施肥効果も異なります。
炭素窒素比が高い状態は、分解する有機物に対して分解するために必要な窒素が少ない状態です。
窒素が不足すると、微生物たちは既に土壌中に存在する窒素を使って、有機物を分解していきます。
これによって、植物が吸収する分の窒素が不足し、植物は「窒素飢餓」という状態に陥ってしまいます。
2時限目に勉強した通り、窒素が欠乏した状態の植物は、退色し、生育が悪くなります。
逆に、炭素窒素比が低いと、材料となる窒素が豊富に存在することになるので、有機質資材が速やかに微生物に分解され、無機態窒素となって植物に供給されます。
この炭素窒素比が低いほど肥料効果が高いと言えます。
ただし、肥効が速やかに現れるということは、急な土壌環境の変化を招き、植物に悪い影響を与える可能性があります。
また植物が吸収しきれない余剰窒素が流出することで周辺の環境に悪い影響を与えることも想定されますので、バランスの良い施肥を行うことが重要になります。
2.肥料を選ぶポイントは?
主要な肥料の中身と、その読み取り方を勉強したところで、ようやく肥料選びです。
ここまで様々な説明をしてきましたが、TOMOZOO的に肥料を選ぶポイントは、
- 効果を選ぶ
- 効かせ方を選ぶ
の2点であると思います。
ただし、いくら必要な栄養をたっぷりと含んだ肥料を効率よく供給しても、効果が現れるかどうかは「不明」です。
やってみなければわかりません。
「○○には○○が良い」という話も耳にすることはありますが、実際にやってみなければそのニュアンスはわからないですよね?
また上記2点と併せて保水性や排水性、化学性などももちろん、考慮が必要といえます。
はっきりと2点に絞ってポイントを挙げていますが、上記2点は、肥料を単に「栄養分を供給するもの」としてとらえ、未だ試用していない「肥料選び」の段階で考慮できる項目があるとすれば、上記2点であるというくらいに(控えめに)考えてもらえればよいかと思います。
効果を選ぶ
肥料の効果を選ぶ際にまず注目するのは、三大栄養素
- 窒
- りん酸
- カリウム
の含有量です。
窒素はタンパク質やクロロフィルなどの構成要素で、植物を青々と大きく育てる原料といえ、りん酸は植物の光合成やエネルギー代謝には欠かせない栄養分で、遺伝情報の伝達にも関与します。
カリウムは、植物の体内で様々な活動を円滑に進めるために必要です。
これらがどう繋がっているかは分かりませんが、よく「窒素は葉肥え」「りん酸は実肥え」「カリウムは根肥え」などと表現されたりもします。
三大栄養素は、肥料のパッケージに大きく
〇-〇-〇
と、その含有量が掲載されているものを多く見かけるほど、肥料を選ぶ際に最も注目される項目です。
その下に、多量要素の三大要素以外の物、微量要素といった要素があります。
実際に「保証票」や「表示事項」の中では表記されていないものもありますが、三大栄養素では補いきれない要素については、植物の示しているサイン(欠乏・過剰の症状)に合わせて施肥していくことができればよいのではないでしょうか。
「保証票」や「表示事項」に掲載されていない要素は、その要素名が商品名や説明文から一目でわかるようになっています。
必要とされるこれらの栄養素のバランスは、植物によって異なりますが、不明な部分も多く、特に観葉植物・多肉植物についてはひとまとめにしたものが多いです。
実際のところ「不要」とされる場合も多いですがいかがでしょうか??
本当はエバーフレッシュのように菌根菌から窒素を受け取ることができる植物もありますし、それぞれの植物に特異・不得意があるはずです。
つまり、何度も言いますが、やってみなければわかりません。
実はそうした「不明」な部分を試すのも、観葉植物や多肉植物を育成する際のひとつの楽しみかもしれません。
ある肥効を狙って、肥料を施し、それが狙った通り植物に吸収され、他の何も手を加えない個体と比べて、明らかにぐんぐんと生長してくれたら、とてもうれしいですよね?
TOMOZOOは、いろいろな植物を育成していますが、植え替えの折に様々な肥料を試してみようと思っています。
その結果については少しずつですが取り扱っていきますので、参考にしていただければと思います。
効かせ方を選ぶ
得られる効果と、もう一つ気にしなければならないのが、効かせ方です。
効かせ方というのは、肥料がどの程度のスピードで効果を表すのかということです。
欲しい効果が適当であっても、その効果をすぐに発揮させたいのか、ゆっくりと持続的に発揮させたいのか、狙ったタイミングで発揮させたいのか、それらをコントロールすることで、植物にかかる不可を軽減し、また無駄のない適正な施肥が可能になるということです。
こうした、肥効の現れるスピードを表す言葉に、「速効性」「緩効性」「遅効性」があります。
これは、「1.肥料の中身は?」の項目で触れた「ク溶性」「水溶性」「可溶性」と関わりの深い表現です。
ひとつひとつ見ていきましょう。
【速効性肥料】
水溶性成分を主とするものです。
容易に水に溶けるので作物による吸収も早く、効果が早く発現します。
一方で、多量に施肥すると植物の生育を阻害する濃度障害が発生する場合もあるので注意が必要です。
また肥効の持続性がないものが多く、追肥として施用する場合が多いのも特徴です。
【緩効性肥料】
ク溶性成分を主とするものです。
根から分泌される根酸によって溶け出すもので、植物の生育に合わせた穏やかな肥効が期待できます。
速効性肥料のように強力ではないものの、その分大きな障害が発生する危険性が低く、比較的安心して利用できる肥料です。
【遅効性肥料】
初期にはほとんど肥効が現れず、後半に効いてくる肥料です。
追肥の省略などが期待できますが、該当する肥料はあまり見かけないというのが正直なところです。
いかがでしょうか。
水溶性成分を主とするものは速効性、ク溶性成分を主とするものは緩効性という認識でよいかと思います。
(実際には水溶性成分・ク溶性成分を複合して、速効性肥料の側面と緩効性肥料の側面両方を持っている場合が多いです。)
まとめ
肥料の選ぶ際には、「効果」と「効かせ方」の2つのポイントがあることを学んできました。
こうしたポイントから肥料の特性を読み取り、育てている植物に対してある程度の狙いを定めて不足している栄養分を補っていくというのが、よいのではないかと思います。
肥料を見分ける基準として他にも、
- 液体肥料なのか、固形肥料なのか
- 肥料をやる回数が多いのか少ないのか
- 環境への影響が小さく抑えられているのか
- (有機質肥料などで)臭いの問題が発生しないか
- 経済的に有効な肥料なのか
などが挙げられます。
育てている植物と、周囲の環境、そして育てる人の状況に合わせて適切なものを模索してみましょう。
3.どんな肥料があるの?
4時限目・5時限目2回に分けて肥料について学んできました。
最後に、具体的な肥料について
- 普通肥料(単肥及び有機質肥料)
- 特殊肥料
に分けていくつか記載しておきたいと思います。
この中には、TOMOZOOで実際に使用したものや使用してみたいと思っているものなどいろいろあります。
恣意的に選んでいますので、バランスに偏りがあるかもしれません。
この項目は新しい情報が得られたらその都度更新しますが、もっと早く網羅的に知りたい場合は書籍を当たってみるのも良いと思います。
普通肥料
窒素質肥料(単肥)
窒素肥料は、窒素を主成分とする肥料です。
有機質肥料以外では、アンモニア系・硝酸系・尿素系・緩効性窒素などがあり、有機質肥料としては、植物質の油かす類、動物質の油かす類などがあります。
硫酸アンモニア(硫安)
公定規格で、アンモニア性窒素を20.5%以上含むと規定されている肥料です。
水に溶けやすい速効性肥料で、比較的入手しやすく汎用性が高いと言われています。
透明の粒状で、元肥として土に混ぜ込む方法、追肥として株の周りに施肥する方法があります。
尿素
公定規格で、窒素全量43%以上含むと規定されている肥料です。
速効性で入手しやすい肥料です。
白色粒状で、水に溶かして施肥する方法、土の上から散布する方法などがあります。
ウレアホルム(ホルムアルデヒド加工尿素)
ホルムアルデヒドと尿素の縮合物です。
公定規格で、窒素全量35パーセント以上を含みます。
ウレアホルムは、微生物によって徐々に分解されていくため、緩効性の肥料です。
リン酸質肥料(普通肥料・単肥)
リン酸質肥料は、リン酸を主成分とする肥料です。
「過リン酸石灰系」「熔成リン肥系」「焼成リン肥系」「混合リン肥系」などがあります。
含有するリン酸には「ク溶性」「可溶性」「水溶性」のものがあり、肥効の速さを選択することができます。
熔成リン(熔リン)
公定規格で、ク溶性リン酸17%、アルカリ分40%、ク溶性苦土12%以上含むと規定されている肥料です。
水溶性成分を含まない緩効性の肥料で、火山灰土壌(赤玉土など)などのリン酸吸収係数が高い土壌で肥効が期待されます。熔リンはpH10程度のアルカリ性肥料で、酸性土壌の改良効果も期待されます。
過リン酸石灰(過石)
公定規格で、可溶性リン酸15%以上、水溶性リン酸13%以上含むと規定されている肥料です。
速効性の肥料で肥効は早く表れますが、pH3前後の酸性肥料であるため活性化したアルミニウムなどによりリン酸が難溶化しやすいという特徴もあります。
カリ質肥料(普通肥料・単肥)
カリ質肥料は、カリウムを主成分とする肥料の事です。
塩化カリ・硫酸カリをはじめ、硫酸苦土カリ、重炭酸カリ、ケイ酸カリなどがあります。
塩化カリ(塩加)
公定規格で、水溶性カリを50%以上含むことが規定されている速効性の肥料です。
塩素を含み、施肥に伴う濃度障害が発生する可能性があります。
硫酸カリ(硫加)
公定規格で、水溶性カリ45%以上含むことが規定されている速効性の肥料です。
副成分である硫酸根により、pHが低下する可能性があります。
(ただし、硫酸根が土壌中のカルシウムと反応して石こうとなることで、その影響を受けにくいともいわれています。)
特殊肥料
骨粉類
骨粉はその生成方法によって「蒸製骨粉」と「肉骨粉」があり、それぞれ期待される肥効が異なります。
肉骨粉は窒素とリン酸、蒸製骨粉はリン酸が主たる成分です。
骨粉類に含有されるリン酸はほとんどがク溶性リン酸で、遅効性の肥料と言われています。
魚かす粉末
海産動物を原料とする肥料です。
リン酸及び、窒素が含まれています。
特に骨を多く含んでいる者はリン酸を多く含有しています。
また窒素は分解されやすい速効性の窒素です。
グアノ
グアノには、窒素質グアノ、リン酸質グアノがあります。
窒素質グアノは公定規格が定められた「普通肥料」ですが、こちらは少数派でほとんどはリン酸質グアノで、「特殊肥料」に属します。
リン酸質グアノは、海鳥の糞が堆積したもので、風化により窒素が流出しているため窒素分はわずかです。
これに加え、コウモリの糞がたいせきしてできたバッドグアノもあり、こちらもリン酸を多く含んだ肥料になります。
4.まとめ
4時限目、5時限目と時間をかけて肥料について学んできました。
実際にどんな肥料が何に良いのか。
それは
「やってみないと分かりません」
ここまで学んできたのはその答えをつかむためのヒント!そう思っていただければ幸いです。
TOMOZOOでは「植物の時間」で学んだ肥料の知識を最大限活用して、今後も植物の育成に取り組んでいきます!
新しい情報が得られたら、どんどんこのページにアップしていきますので、繰り返し繰り返し確認しながら、やっていきましょう!!